消えゆく家族の影
薄暗い街角にそびえる古びた洋館。そこはかつて名家の私邸だったが、今は放置され、すっかり荒れてしまっていた。噂では、この屋敷に住んでいた家族が謎の失踪を遂げた際、そのまま誰も近づかなくなったという。そんな噂の真偽を確かめるため、若い探偵の清水はその屋敷に足を運ぶことを決意した。
彼はこの周辺の不審な失踪事件に興味を持ち、その背後に潜む真実を解き明かそうとしていた。しかし、屋敷のドアを開けると、ぞっとするような静寂が彼の耳を打った。薄暗い廊下には、古びた家具や埃をかぶった写真が散らばっていた。写真には、かつての家族の幸せそうな姿が映し出されていたが、その表情にはどこか影があった。
清水は、まずは一階を探索することにした。リビングルームを抜け、キッチンやダイニングルームの様子を伺ったが、何も異常は見受けられなかった。彼は階段を登り、二階へ向かう。音もなく、床がきしむ音が響く。二階の廊下はさらに薄暗く、まるで時間が止まったかのように静まり返っていた。そこには4つの部屋が並んでいた。
一番奥の部屋からかすかに声が聞こえた。「助けて…」その声はか細く、かすれたように聞こえた。清水は心臓が高鳴るのを感じながらその部屋のドアを開けたが、そこには誰もいなかった。ただ、壁に貼られた家族の老朽化した写真が、彼の目を引いた。写真には、家族が集まって笑っている姿が写っているが、目を凝らすとその中に一人だけ異様な表情をした男性がいた。顔は笑っているが、目はまるで絶望しているかのようだった。
不安を感じながらも清水は部屋を調べ続けた。すると、机の上に一通の手紙が置かれていた。内容は次のように書かれていた。「私たちはここから出られない。彼が来たときに、皆が消えていった。どうか、信じてほしい。」清水の胸に嫌な予感がよぎった。彼が進めば進むほど、何かが彼を見つめている気配を感じていた。
再び廊下に出ると、自分の背後で物音がした。振り向くと、そこには誰とも知れぬ影が立っていた。恐れに襲われた彼は、階段を急いで下りて玄関に向かった。しかし、影は彼の後をついてきた。冷たい風が吹き抜け、彼の心臓は恐怖で締め付けられた。清水は、どうにかして屋敷から脱出しようと考えた。
ふと、窓の外に目を向けると、そこにはかつての家族の姿が映っていた。彼らはそれぞれの失踪した日の服装をしており、まるで清水に何かを伝えようとしているかのようだった。家族の目は、彼に訴えかけるように大きく見開かれており、清水はその視線から逃げるように背を向けた。だが、彼は逃げられなかった。
影はいつの間にか彼の前に現れ、声を発した。「ここから出られないのはお前も同じだ。」その言葉に、清水は体が凍りついた。逃げても逃げても、結局彼はこの洋館に囚われてしまうのだ。彼は急いで屋敷の出口に向かったが、ドアが閉じられたまま開かない。焦りのあまり、彼は後ろを振り返った。
そこには、家族の誰かが立っていた。彼女は無表情で、ただ彼を見つめていた。そして少しずつ近づいてくる。その目は感情を失い、全てを受け入れたかのように冷たかった。清水は全身の力が抜けるのを感じ、息が詰まりそうになった。目の前の女性が彼に触れると、まるで冷たい鉄のような感触が彼の心を掴んだ。そして彼は、何かが彼の中で変わるのを感じた。
その瞬間、清水の意識が遠のいていった。彼はここに留まることになったのか。彼が失踪事件を追ううちに、同じ運命を辿ることになるとは思ってもみなかった。気づくと、彼は壁に立つ一枚の写真の中の一人として、再び家族と共に微笑んでいた。その目は絶望に満ちた笑顔で、周囲に目を光らせる者が新たに来るのを待っていた。